コートヤードHIROOを運営する株式会社アトムは、若手アーティストの育成を図るとともに、文化を通じた都市・地域活性を目指し、芸術を学ぶ全国の学生から作品を募集する「A-TOM ART AWARD 2023」を開催しています。多数の応募の中から、書類選考、プレゼンテーションによる最終審査会を経て5名の受賞者が決定いたしました。2023年10月13日(金)~10月29日(日) の期間、コートヤードHIROOにて受賞者によるグループ展を開催いたします。

A-TOM ART AWARD 2023 EXHIBITION開催の舞台となる建物は、1968年に旧厚生省公務員宿舎として建てられ、当時の生活の佇まいのまま残存していました。2014年に古き良き建築物を周りの自然環境を含めて引き継ぎ、現代に合わせて再生し、誕生したのが現在のコートヤードHIROOです。本アワードでは、このようなストーリーを持ったこの建物で開催するからこそ”人間性を取り戻せ”というテーマを掲げさせて頂きました。

金融資本主義的な開発からは、生活感は失われ、人間の営みから遠ざかっている感すらあります。正解と数字を追い求め、問題の本質や無駄には目を背ける先に残るものはなにか? そんな世界に芸術のつけ入る隙間は狭まるけれど、その可能性と重要性は増しているのではないか。正解を探すのではなく、問題を立てることは苦痛を伴うもの、エネルギーを要するもの、マゾヒスティックな行為とも言えます。しかし芸術はそこに向かい合い、私たちの生き方に対する考えを発酵させるためのスターターになりうる。人間性を取り戻すためのタネとして。

この建物を舞台に受賞者5名それぞれが人間性のタネとなるような作品を、コートヤードHIROO・ガロウにて展示を行います。会期中是非ご覧ください。

A-TOM ART AWARD 2023 EXHIBITION
展示期間:10/13(金)~10/29(日)
営業時間:12:00~19:00
授賞式:10/19(木) 17:00~19:00 ※各賞の発表を行います
休日:月曜日

■A-TOM ART AWARD 2023 受賞者

齋藤 晃祥
2000年兵庫県明石市生まれ / 東京藝術大学大学院彫刻科在籍

向かうべき風景
山に登った時の体験が作品の根底にある。丸太という人一人の力じゃ手に負えない素材をどのように扱えばいいか悩んでいた時期のこと。山を歩いていると黄金に輝く物体を見た。その正体は折れた枝の無数の繊維が光を乱反射して輝いていたものだった。私はその中に、生物としては死んだけど剥き出しの生命力と無数に束ねられた繊維の記憶からの解放を見た。そして丸太をスライスして内包されている記憶と木目の景色を解放することでこの体験を作品として昇華した。


上條 信志
1998年東京都生まれ / 東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻在籍

Butterfly in the Room
作品のテーマは「絶え間なく再生される膨大なイメージによる情報の飽和と分断」。例えば、人混みにいるときや友人や家族と食事をしているとき、または一人でベッドに横たわっているときなど、私たちは自分には直接関係のない出来事や物語をモニターを通して見ている。ゲームのハイライト、退屈な広告、戦争の報道など、無数の映像が私たちの目や身体に無秩序に流れ込んでくる。このような情景を、架空の旅客機の窓から見た景色と地上の部屋の窓から見た景色、双方向の視点を組み合わせることで、空想的でありながら現実を取り込んだストーリーを構築している。


中澤 瑞季
1995年神奈川県生まれ / 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程 彫刻研究領域在籍

ホーム
ブロック状にした木材を組み合わせ、組み合わせたブロックを縦断するように板材を垂直に差し込み、生まれた境界を行き来するように人体のイメージを作っている。制作時や展示される時の作品の周りの環境である建築空間を、作品の内部に垂直性をもって介入させることで、作品の存在自体が環境に溶け込み不確かになっていく、その中で人間の存在の不確かさにつながる表現がうまれる。


石井 佑宇馬
2001年福島県いわき市生まれ / 金沢美術工芸大学 染色専攻 在籍

Nonverbal dyeing
この作品の紋様は全て手描きの防染糊置きと面相筆による彩色の点描によって生み出されている。紋様に下書きはなく、手の赴くままに即興的に糊を置き、染色をし、紋様を生み出していく。禁欲的な手仕事から生まれる抑制された美しさと、作者すら予期できない即興性から生まれる作品の身体性。これらの美意識に加え、染まることと染まらないことの関係性、染料と余白地の関係性も大きなテーマである。「互いに関係し合い、表裏一体となって一つの世界のうねりとなる」という私の自然に対する考え方がそこにはある。


尹苑
1993年中国上海生まれ / 東京藝術大学美術研究科彫刻専攻博士後期課程在籍

Apparatus Furnitures-Dining/Organizing
コロナ自粛中身体が家具に囲まれた環境で息苦しさを感じたことから着想を得た。家具は、人間が自分の日常的行動パターンで組み上げたシステムでありながら、それを使用する人間は習慣によって生活が形成されていく。これは人間が自分で生み出したものから抜け出せなくなることを意味する。身体と家具が共生しているように見えて、実際は形を維持するために相当な忍耐を必要とする。家具を支える身体が耐えきれず震え、限界を感じても「手放せない」、「崩さない」という人間とシステムの矛盾した関係性を表現する。作品はシステムの崩壊を示唆するが、実際のところその可能性は見る者に委ねられている。パフォーマーの本能的な違和感と拒否感を表現すべく、パフォーマーが2 つの構造を維持しようと身体が痙攣する細部にフォーカスし鑑賞者に緊張感を共有する。

■審査員総評

Roderick van der Lee
It has been a privilege to be part of the process of the 2023 A-tom Art Award as an international juror from the other side of the world. As such, my perspective is perhaps less informed in certain cultural contexts, but it is my hope that it is received in the spirit in which it is intended: a respectful outside view.

What struck me most in the presentations, is the very high level of thoughtfulness in the projects, all so extremely well considered. In addition to the intellectual strength of ideas, the forms in which these ideas were captured were also done so very, very well. There was a sparseness that as a Dutchman I can much admire. No unnecessary or gratuitous gestures, and every gesture made with consideration and respect. Perhaps in idea much closer related to the centuries (or perhaps millenia) old culture of Japan than many of the visually 'louder' contemporary art from the region from previous decades.

I am truely amazed by the high level of quality from these relatively young artists, and felt a true current of excitement for the future. I also enjoyed many of the interactive elements of the projects, as well as their broadness in methods.

Too see such quality in thought as well as form, both married in such a good way, is rare. As such, I would like to congratulate all, and I am excited to follow their paths in the future


黒崎輝男
1968年には世界史に残る、いろいろな出来事が起きました。パリ五月革命や日本では学生運動がおき、アメリカではベトナム反戦運動やヒッピームーブメントが起きました。丁度その1968年、ニューヨークのあるクラブでディスクジョッキーと呼ばれる、レコードを掛けて、そのレコードを交換する間にお喋りして繋ぐ、レコード(ディスク)を乗り継ぐ人(ジョッキー)からDisc Jockey- DJ と言われる、レコードをかける担当の人が、ディスクジョッキーの代わりに喋りなしで、レコードを交換するだけで、クラブのオーディアンスを乗せて、盛り上げたことから、djの時代が訪れました。それまでは、楽器の演奏をして歌うのが上手いのが、いいミュージシャンであり、スターであったのが、レコードや音楽と聴衆を繋ぐことに長けた人がdjとしてスターになりました。特に演奏や歌が上手いわけじゃなく、下手すれば楽譜も読めない人がミュージシャンの代わりにdjとしてスターになる時代になってきました。今回、アトムアワードの作品は、彫刻や写真や絵画そのもののクオリティが高いものでありながら環境や関係性や社会的なポジションの位置を考えたものが有り、新しい感性をかんじました。特に家具の今までの家に付帯する道具から、逆に行動を規定する道具と言う視点を提示され、大きなショックを受けました。家具やアートの社会に対するインパクトを社会的な影響力を込めて、逆転させた作品の意味性に注目してみました。


伊東順二
今回のアトム賞審査でますます傾向が顕著になったのは応募者よりむしろ審査サイドに求められる柔軟な視点と審査員サイドの知見の拡張だったように考えている。というのもデジタル技術を使用することがもはや手法ではなくアナログ技術と同等に作品表現の基盤となっている時代に先端的実験的表現は過去との参照ではなくアメーバのように人類が関わる研究領域全てにどのくらい拡張できるか、という点に鼎の軽重が問われるからである。その視点で受賞作を改めて検証すると社会学的視点に立ったものが多かったように改めて思う。しかし、彼らがより成長し発展するためにはその社会を構築する論理的構造にもさらに深くメスを入れるべきであるだろうし、そもそも概念芸術の成立過程をもう一度歴史的観点から見直すことも大切なことであるとも感じた。展示されることは叶わなかったが「乳の街」は新しい問題意識があると思った。


藤元明
2022年よりA-TOM ART AWARDの副賞としてソノ アイダが加わり、2名の若手作家と共に1ヶ月半、同じ空間で制作活動を行いました。私はソノ アイダという非日常な経験が、参加作家とその友人、後輩の作家たちの心を揺さぶるような時間となることを願っています。実際、今年の応募者の中にはソノ アイダに来場してくれた方が何名もいて、活動の拡がりを実感しています。

今回のアワードでは、様々なアプローチの作品があり、プレゼンテーションのレベルも高い印象を受けました。審査をする上で重要視した点は「美術性」です。必ずしも作品が「美術」であるべきだとは言いませんが、技術や自己の内在化文脈を超え、更に社会性や関係性のある作品を選出しました。

アワードに応募してくださった方、活動する全ての作家のみなさん。
アーティストを続けていくための工夫を考え、制作を続けていきましょう。


青木昭夫
AI技術で秀逸なビジュアルが一瞬でできる時代にアートがもたらすものはなんなのか。「人間性を取り戻せ」とテーマが設定された今年のアトムアートアワードはそんな時代性に突きつけられた問いなのではないか。人々が本当に魅了されるのは、CGを駆使したただ美しいだけのものではなく、人間性が露呈した「完璧すぎない不器用さ」に見えない背景を想像し、形骸化された作品とともに感じる心の揺れが感動に結びつくのではないだろうか。それだけでなく、見た人に多様な視点を与えられ、議論が生まれるものが新たな価値として求められている。アートはその伝播するエネルギーが生じたときに見える閃光の結晶なのかもしれない。その時にしか作れないもの、作家自身も想像できなかったもの、偶発的な現象、そのまだ見ぬ未知な世界に心惹かれる。一次審査を通過した10人を筆頭に応募者それぞれ、その強さを感じるものだった。そして作品だけではなく、ストーリー性を伴ったプレゼンテーションも素晴らしかった。映像、彫刻、抽象画、工芸、インスタレーションと多岐におよぶ作品から順番を決めるのは容易でなかったが、それぞれ異なる魅力を持ち、その表現力に圧倒された。これからの時代、アートシーンが面白くなることしか想像できない。


青井茂
A-TOM ART AWARDは、多くの方々のご協力を得ながら、今年で6回目の開催を迎えることができました。本アワードを通して私共は様々な才能ある若きアーティストの方々と出会うことができました。これまでお力添えを下さった皆様に感謝申し上げます。

Covid-19で世の中は大きく変化しました。そうした現代において、今一度人間性が重要となるのではないか、という想いが個人的にあり、本年の「人間性を取り戻せ」というテーマ設定をさせていただきました。これからの時代を生きるためには、現代社会に問いを持ち、考え、動き、自己を確立していくことが必要不可欠です。芸術はそれらを示唆してくれる存在です。10月には受賞者によるグループ展、2024年にはアーティスト・イン・レジデンスと楽しみなプログラムが続きます。私たちアトムはアーティスト達と活動を共にし、私たち自身も進化をしてまいりたいと思っています。

改めまして、ご応募いただいた皆様、本当にありがとうございます。これからもアーティスト達の更なる飛躍を少しでもサポートできるよう、アワードを続けていきます。 


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