コートヤードHIROOでは、アーティスト・菅原万有による個展『漏れだす経済、再演のたましい』の開催にあわせて、作家自身がファシリテーターを務める体験型ワークショップを実施いたします。
本展で取り上げられている「ケア」「同意」「支配」といった社会的テーマに、参加者自身の身体を通じて向き合うことを目的とした実践型のプログラムは、出展映像作品《Muster Point》(2025)とも連動しながら、演じることを通じて関係性の構造を捉え直します。本ワークショップは展覧会をより深く体験するためのもうひとつの入口となるでしょう。ぜひ、この機会にご参加ください。

アーティスト・ステートメント
個展『漏れだす経済、再演のたましい』では、「演じること」を通じて、ケアや親密性、暴力や支配といった構造を可視化/聴取することを試みています。
本ワークショップはその延長線上にあり、参加型の実践を通じて、「ケア」や「同意」に内在する力のダイナミクスを、ともに感じ取り、問い直す場となります。
私たちの社会には、育児や介護、恋愛、友情、雇用関係など、さまざまなケアのかたちが存在しています。けれども、「ケア」とは本当に“良いもの”なのでしょうか。愛ある行為のなかに暴力が潜んでいたり、善意としてのふるまいが知らず知らずのうちに誰かを傷つけていることもあります。「やさしさ」や「愛」といった語法そのものが、誰かを縛る抑圧の文法になってはいないか——そんな問いを足がかりに、ふたつのエクササイズを通して、ケアや親密性の輪郭を捉えなおし、その背後に潜む社会性や暴力性に光を当てていきます。
ワークショップの核となるのは、SMの実践から着想を得たロールプレイの構造です。
SMにはしばしば「タブー」や「怖さ」といったイメージがつきまといますが、私にとってそれは、社会の構造を縮図として映し出すミニチュアモデルのようなものです。ケアの与え手/受け手、支配者/服従者、見る者/見られる者──そうした非対称な関係性を、非性的な文脈で可視化・再配置することで、制度的な暴力のひび割れや、その先にある関係性の可能性を探ります。
制作においても、私はロールプレイを「今/ここ」で新たに生成される親密性の形式として扱っています。それは単なる「演技」ではなく、身体を通して社会の力学を捉え直すための装置でもあります。本ワークショップでは、展覧会に登場する映像インスタレーション《Muster Point》を導入に、私たちが日常的に演じている「役割」や、それを支えている構造に意識的なまなざしを向けていきます。

開催概要
開催日時:5月24日(土)14:00~16:00
所要時間: 2時間(時間が少し延びる可能性あり、途中退出可)
定員: 16名(参加無料・事前申込制)
持ち物: 不要、動きやすい服装でお越しください
ファシリテーション: 菅原万有(アーティスト)、丹原健翔(キュレーター)

ワークショップ構成
1. 導入と背景共有(20分)
菅原によるアート実践および研究領域の紹介
展示会の大きなテーマである「自己拷問」と「クィア化」について
映像作品《Muster Point》を手がかりに、「ケア」と「支配」の理論的枠組みを提示

2. エクササイズ1(30分)
小道具を用い、日常的なケアの動作を2人組で実践

3. エクササイズ2(30分)
内面化された「役割」や「期待」を可視化し、それを意図的にずらす実験

4. ふりかえり(20分)
制度やジェンダーに縛られない、自由で誠実な親密性とは?
各自が思ったこと・感じたことを共有

注意事項
ワークショップの性質上、他参加者との身体接触がある可能性がございます。当日、エクササイズの前に内容説明を受けたうえでの途中退出・中断も可能ですが、あらかじめご了承ください。
ワークショップの性質上、ディスカッションやレクチャーの中でセンシティブな内容に触れる可能性があり、未成年の参加者はご遠慮いただいております。

ワークショップは原則日本語で開催されますが、英語での同時通訳も可能です。必要の場合はフォームにてその旨をご記入ください。
* The workshop will be conducted in Japanese, but English translation is possible. If you require English translation, please write this in the reservation form.

ワークショップ中のルール
・同意のない身体接触は禁止
・他参加者を不快にさせる可能性のある表現やジェスチャーは行わない
・ワークショップ内で共有された内容は外部に持ち出さない(守秘義務)
・本プログラムは途中退室・中断も含め、いつでも「やめる」選択が可能
・他者のアイデンティティ、境界、経験を尊重すること
※他、ワークショップ実施に支障をきたすと判断された参加者行動があった場合は、直ちに中止をすることもございます。あらかじめご了承ください。

申込方法
Google Formにてお申込ください。
https://forms.gle/U9yPPJV7ggrXqVvL6

ファシリテーター紹介

菅原万有(本展アーティスト)
香港在住のアーティスト・研究者。1994年東京生まれ。10代を英国で過ごし、早稲田大学で学士号を取得後、カナダ・オンタリオカレッジオブアートアンドデザインにて美術修士号(MFA)を取得。現在、香港城市大学クリエイティブ・メディア学部博士課程に在籍し、アートと理論の融合を深める研究に取り組んでいる。これまで、個展「Algorithms of Innocence」(2022年、トロント・日本カナダ文化センター)をはじめ、国際芸術祭Nuit Blanche 2022、また映像作品「(S)mothnering Myself」の発表(2024年、香港Square Street Gallery)など、国内外の展覧会において作品を発表。XR(VR、AR)、写真、映像、インスタレーション、テキスト、パフォーマンスといった多岐にわたるメディアを駆使し、表現を行っている。展覧会や学術会議、芸術祭など、さまざまな領域で研究と作品を発表しており、クィア的な方法論とナラティブを基盤に、隠されてきた歴史や抑圧された個人の物語を掘り起こす。グローバルな、そして個人の歴史、帝国主義、欲望、暴力、異性愛規範、植民地主義といった複雑に交錯するテーマを探求し、現代社会に新たな視座を提供することを目指している。


丹原健翔(キュレーター)
東京在住、アーティスト・キュレーター。1992年東京生まれ。ハーバード大学美術史学科卒業。現代におけるコミュニティの通過儀礼や儀式についてのパフォーマンスを中心にアーティストとして活動するほか、展覧会の企画・キュレーション、アートスペースやアートプログラムの運営に携わる。主な展覧会に『未来と芸術』展(19年、森美術館、Another Farm名義)、『Meta Fair #01(22年、ソノ アイダ #新有楽町、東京)、『無人のアーク』(Study: 大阪関西国際芸術祭 2023、大阪)、『Back to Thread 糸への回帰』 (FUJI TEXTILE WEEK 2023, 山梨)、『循環する宮殿』 (Mikke Gallery, 東京)など。