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青井 茂 株式会社アトム 代表取締役

疑え。そして、天井を突き破れ。

伊東順二 Junji Ito

Art Q & A

そもそも「アート」とはなんだろう。社会や教育における「アート」の立ち位置とは何なのか。
アートのスペシャリスト、伊東順二氏に話を聞いてみた。

「東京藝術大学社会連携センター」は、どのような意図で始まったのですか。 芸術で社会の発展に貢献するため、社会と藝大をつなぐ窓口として創設 構想が生まれたのは、現在、文化庁長官である宮田亮平さんが藝大の学長だったころ。藝大が持つ音楽と美術というコンテンツを活かし、社会に貢献したいという宮田さんの想いがきっかけでした。大学は教育研究活動を行う場所ですが、同時に、芸術を通した社会貢献が期待されている機関でもあります。学生たちによる展覧会やコンサートを開催することも、市民の方々が広く芸術に親しむ機会を提供し、社会を文化的に成長させていくことに役立ちますし、一方、学生たちにも芸術を通して社会に貢献しているのだという実感を与えます。そこで、日本における芸術教育を長くリードしてきた東京藝術大学では、学外と学生たちを繋ぎ、関係情報の提供や調整を行う総合窓口として、2007年4月に「社会連携センター」を設置。当時、私は富山大学芸術文化学部で教授を務めていたのですが、宮田さんに声をかけていただき、こちらの特任教授として就任しました。

教育の観点から芸術に関わる立場として、芸術の価値とはどんなところにあると思いますか。 芸術の究極的な命題は「人間とは何か」。人間に対する深い洞察が、その回答へ導く 私が藝大で取り組んできた試みのひとつに、「風景と心の修景および創景事業」というものがあります。これは2011年に発生した東日本大震災により、失われてしまった東北地方のさまざまな風景を芸術の力によって再生し、後世に伝えていこうというプロジェクトです。私たちが着目したのは、震災時の様子や復興の模様ではありません。震災が起こる前、東北のいたるところで見られた日常的な風景を、被災者の記憶や残されたフィルムなどから再現し、映像表現作品としてまとめたいと考えたのです。ある学生は被災者のお年寄りにお話をうかがい、その内容を一枚の絵に表しました。また、ある学生はそのお話を音楽として表現し、コンサートを行いました。学生たちはそれぞれの技能を活かし、自分にしかできない表現活動を行うことで、社会に対する文化的貢献のあり方を知ったのです。芸術家は、社会における自分の立ち位置を知らなければいけません。そして、社会に芸術の価値を認めてもらうには、明確な役割を果たさなければなりません。そのために芸術家が持たなければならないのは、「人間とはなんなのか」という究極の命題です。そもそも芸術が生まれたのは、人間を深く探求しようという想いから。「宇宙とは何か」と考えるのが科学であるなら、「人間とは何か」を考えるのが芸術です。長い歴史の中で、人間は人間という存在と向き合うことで、さまざまな芸術作品を残してきました。そのため芸術家は人間に対する深い洞察を試み、人間と真っ向から向き合う存在でなければならないと思うのです。そうした人材を育てるために、私たち社会連携センターは社会と学生を結ぶ役割を果たしています。

日本におけるビジネスと芸術の関わりとは? 新しい芸術は文化として成熟し、社会の基盤を変えてビジネスにもつながる 私が社会連携センターで、まず最初に手がけたのが、三菱地所と共に行う「藝大アーツイン丸の内」というイベントです。これは、藝大と三菱地所が協働し、丸の内からアートを発信しようというもので、2007年にスタートしました。「芸術によるまちづくり」をテーマに学生たちはキャンパスを飛び出して、街との接点を探しながら、社会における芸術のあり方を学びます。そして三菱地所は、日本の中心的なオフィス街である丸の内エリアに文化と芸術の香りを呼び込むことで、創造性豊かな街づくりを目指します。本来、芸術とは人のくらしに寄り添うもの。個人的な目的やテクニックの競い合いに終始するのではなく、社会的な命題を持ち、世界の文化的な成長を促すものでなければなりません。日本経済の縮小とともに状況は変化してきましたが、かつては芸術に関して寛容な経営者がたくさんいました。私財で「セゾン文化財団」を立ち上げ、街に文化スペースを生み出した堤清二さんをはじめ、多くの方が日本を芸術の力で発展させようと意欲的でした。芸術は成熟して社会に「感動」という装置を仕掛け、世の中の基盤を大きく変えます。そうした潮目を芸術的感性で捉え、ビジネスの成功に役立てた経営者の方も少なくありませんでした。もちろん今でも芸術に理解の深い経営者の方はいらっしゃいます。今回、青井さん率いる株式会社アトムが、すぐれたアート活動を行なっている学生を表彰する「A-TOM ART AWARD」を創設されたということも、若い芸術家を支援し、社会との接点を作るという意味で、とても価値のあることだと思います。特に、青井さんが携わっている不動産という業態と関連させつつ、私たちと協働して「自然」と「都市」をテーマに作品を選定したという点も、非常にユニークだと思います。

今後、若いアーティストたちに希望することはなんですか。 その時代にしか表現できない「心」を表現し、文化的多様性のある社会を創って欲しい 芸術家とは一体何かと考えると、端的に言えば、人間の「心」を表現する職業だと思うのです。私は時々学生に「心は存在すると思うか」と聞くのですが、たいていの学生は「思う」と答えます。「どこにあるのか」と聞くと胸や頭など、みんなバラバラの答えを言う。では「心を見せてみなさい」と言っても、当然無理ですよね。私がおもしろいと思うのは、これほど物質主義にまみれた現代社会でも、心という目に見えないものを信じる感性は、まだ人間に残されているということ、そして、その心を美術や音楽という形式で表現できるのは、芸術家しかいないということです。だから芸術家は社会においてその価値が高く評価され、尊敬される存在でなければならない。私はそう思います。

芸術にはさまざまな形があります。美術、音楽、映像などいろいろなメディアを通して芸術は発信されますが、私は、それらのメディアは「芸術」という世界への入り口であり、結局行き着く先はすべて一緒だと思っています。だから私がこれまで手がけてきた美術館やアートイベントは、メディアミックスが基本。メディアを横断し、複合的に活用することでより一層、芸術としての精神性が明確に表現されるのです。

その時代にしか表現できない「心」を、その人にしか成し得ない手段で表すこと。それができるのが芸術家であり、いわば、藝大はそうした芸術家の卵の宝庫。彼らが殻を破り、堂々と社会に出てくることができるように、私たちは社会環境を整備したいと思いますし、同時に、民間企業をはじめ多くの団体と協力しながら、文化的多様性のある社会を創っていきたいと思います。

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Magnus Robach

JAPANESE ART × SWEDISH ART

2017年12月、コートヤードHIROOでSWEDEN WEEKが開かれた。様々なアートが展示されたが、国が違えば価値観も違うだろう。「日本のアート」と「スウェーデンのアート」の違いとは。駐日スウェーデン大使、マグヌス・ローバック氏に話を聞いた。

日本とスウェーデンにおけるアートについて、どのような相違点があると思われますか。
結論からいうと、私は両国におけるアートについて、あまり大きな違いがあるとは考えていません。スウェーデンでは、アートとクラフトはとても近いものです。特に、子どもたちへの教育において、それらの違いはあまりなく、子どもたちは人生の早い時期から、自分のできる範囲で、自分の手を使ってものを生み出すことを学びます。これは、日本でも同じことが言えるのではと思います。日本には伝統的なクラフトが根強く存在していますよね。あえてスウェーデンならではの特徴を挙げるなら、スウェーデンではアーティストのライフスタイルそのものもアートとして認識されていることが指摘できるのではと思います。以前、銀座のデパートで日本でもよく知られているリサ・ラーソンの回顧展が開かれました。彼女は芸術的思考と誠実さを持ちながら、クラフトの作り手として自由な遊び心に溢れ、動物たちを題材に繊細な作品を生み出しました。このような多面性こそ、まさに真のアーティストである証拠であり、作品だけでなく、彼女の内面も多くのファンを魅了しているのだと思います。

スウェーデンでは、アートに関してどのような教育プログラムを行なっているのでしょうか。
スウェーデンでは学校のカリキュラムの一部に、アートを取り入れています。たとえば、子どもたちが自分の手を使って好きなように自分自身を表現するクラス。ここではルールがほとんどなく、子どもたちは想像力を自由に働かせて、ものを作ることに取り組みます。なぜ、スウェーデンでは想像力が重要だと考えているのか。これには、スウェーデンという国の立地や歴史が関係しています。スウェーデンは年間通して気温が低く、日照時間も短い国です。特に北部の冬は長く、マイナス20度まで気温が下がることも少なくありません。ここで生活できる人はなかなかいませんし、住みたいと思う人も少ないでしょう。だからこそ、そこで生活をしている人たちは独創的で想像力に溢れ、自分自身であらゆるものを生み出せるようになったのです。こうした不屈のライフスタイルが、彼らのクリエイティビティに磨きをかけ、独自のアートを発展させたと言えるでしょう。

大使はプライベートでもアートをコレクションされていらっしゃいますか。
コレクションというほどではありませんが、アートはとても好きなので、自宅にはたくさんの絵が飾られています。実は、私の大祖父はアーティストだったのです。向こうではとてもよく知られた画家で、ナショナルロマンティックスタイルという、19世紀の終わりに流行したスタイルを踏襲していました。祖父は日本の伝統的な絵画スタイルにも影響を受けていて、たとえば、私が所有している祖母のポートレートにもジャポニズムの精神がとてもよく表れています。その絵は、おそらく日本人なら誰もが知っているであろう、着物を着た芸者が襟首をのぞかせているのと同じ構図で、襟首を見せるのはとても官能的だったので、祖父はそれを真似て描いたようです。私自身は、伝統的な絵画スタイルよりもむしろコンテンポラリーアートを好みます。時々、あちこちで開催されている展覧会も訪れますが、ガイドに案内してもらうとさまざまなアーティストの系譜や関連性を説明してもらえるので、とても興味深いですね。特に、アーティスト同士のつながりや影響を受けたものを知ることは非常に面白い。スウェーデンには100以上もの博物館や美術館がありますが、その中で、とりわけ日本の方々にお勧めしたいのが、ストックホルム郊外のアーキペラゴという街にあるアーティペラグ美術館です。アーキペラゴはバルト海に浮かぶ美しい群島で、その中にあるアーティペラグ美術館はアートと人が融合した、とても魅力のあるスポットです。ここで開催されるエキシビションでは、そのアーティストが何にインスパイアされたのかなど、アートを起点にしたリンクを紹介しています。たとえば、現在はイギリスの陶芸家のエキシビションが開催されていますが、美術館のキュレーターは彼がインスパイアされたアーティストをイタリアから見つけ出し、さらに展示作品の魅力の奥行きを増しました。ぜひ、日本の方々にも訪れていただきたいですね。

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